リトリートと仕事は両立できるのか その②準備編

【リトリート】
隠居。避難。また、隠居所。隠れ家。避難所。
仕事や家庭などの日常生活を離れ、自分だけの時間や人間関係に
浸る場所などを指す。
(デジタル大辞泉より)

 

前回の記事では、「社員を6日間会社から隔離したら生産性が上がるのか」という、知りたいけれど誰も教えてくれない、現代ビジネス社会の闇に切り込んだ、実に探偵ナイトスクープ的な企画が立ち上がった経緯を書かせていただきました。

過去記事はこちら
リトリートと仕事は両立できるのか~プロローグ~

第2回目は、その行き先選定と準備についてです。

リトリートというと聞こえが良く、
「あ~、自然を眺めながら仕事とか最高」
「誰にも邪魔されず集中できそう」
とプラスイメージばかり出てきますが、実際に企画してみるとなかなかにハードルが高いことが判明しました。

 

リトリートの定義から考えてみる

まず「何をもってしてリトリートとするか」という定義が必要です。
今回の企画に関していえば、定義は単に人里離れた場所に行くことではありません。なぜなら、6日間仕事がしっかりできないと効果検証ができないからです。

会社からは「成果?まあやり切ったって実感があればいいんじゃない?」という体で放り出された私ですが、さすがに6日間リゾートでのんびりして帰ったらきっと怒られます。

準備期間はたった1週間です。どうにかして効果を検証するすべを探さなくてはなりません。

そこでまず困ったのは、弊社の日常の勤務体制についてでした。

株式会社Flucleは良くいえば「自立」、つまり「野放しと適当なバランス」をポリシーとする自由気ままな勤務体制で運営されています。

一切管理はされませんし、休みも自分次第です。
たまの打ち合わせで集まる以外、メンバーと会うことはあまりありません。

オフィスに行って予想外のメンバーがいると「なんでおるん!?」という言葉が出るような環境です。

そのため、会社から離れるということに新鮮味はまったく感じられませんでした。
通常でも10日くらい会わないことがあるのに、今さら「隔離」といわれても…

つまり弊社の場合は、「場所を変える」だけではリトリートにはなり得なかったのです。

 

何がいつもの仕事を阻んでいるのか

そこで私は、自分のルーティンワークのボトルネックを探してみました。
私は仕事のどこにストレスを感じ、「進まない!」とイラついているのだろう。どの要素を排除したら、溜まっているアレコレを仕上げることができるのだろう。

考えた結果、まず決めたのは「SNSとメールから離れる」ことでした。

とにかく連絡業務が多い。しかし各種SNSから細切れに入ってくる情報は、定時確認でいいはず。そしてなるべく集中して自分の仕事ができる時間を確保する。

またパソコン・スマホからも離れる時間が重要と判断しました。今回、6日間で私が仕上げたいと思っている仕事の多くは「言葉・アイデアをゼロから生み出し」「発信できるように練りこむ」というものばかりです。

しかし最近、惰性でPCに向かっていないか?
集中できないのは処理しきれないほどのジャンクな情報に踊らされているのではないか?

そこで、仕事に対峙する時間以外は、パソコン・スマホを見ないよう徹底すると決めました。
もちろん最低限必要な情報は取ります。しかしそれ以外の時間は、本を読み、自然を眺め、黙想を楽しむことにしたのです。

数日考えた結果、私にとっては場所を変えるリトリートよりも、「デジタルデトックス」の要素が必要という結論に至ったのでした。

 

条件に合う場所がみつからない!

目的が定まったら、次は場所探しです。
これはかなり難航しました。

デジタルデトックスだけなら、自宅でもできます。

しかしなにせ日頃から在宅勤務が多いため、まったく気分が変わりません。そして、もし自宅で6日間を過ごしてしまったら、「単にレスポンスの遅い在宅勤務の人」になってしまいます。

「せっかくだからどっか泊まろう」

条件を書き出します。
PCが繋がる。机がある。寒くない。以上。

しかし探していくうちに、隠されていたさまざまな条件があることに気が付きます。

候補①ビジネスホテル

メリット:WIFIと快適な環境、自由に時間を使える、コンビニやプリンタなどに困らない
デメリット:自宅とあまり変わらない、脳が活性化しなさそう、寝てしまうかもしれない

候補②旅館

メリット:風光明媚、温泉がある、リラックス効果が高い、文豪みたいでカッコいい
デメリット:連泊は経費がかさむ、料理・お風呂の時間等が決まっていて不自由、デスクが無い、さぼりそう

候補③山の宿坊

メリット:脳に絶大な効果があることが経験上分かっている、修行もできる、リーズナブル
デメリット:Wi-Fi環境が不安、下山できないと不便、急の予約不可&ひとりでは泊まれないことも多い

候補④郊外・田舎のセミナーハウス系

メリット:リーズナブル、プリンタなど仕事環境が整っている
デメリット:ひとりでは泊まれないことも多い、冬季休業のところが多い、広くてひとりでは怖い

候補⑤国民宿舎、かんぽの宿

メリット:自然の中で泊まれる、温泉がある
デメリット:連泊は経費がかさむ、仕事に向いているかというと微妙

候補⑥ゲストハウス

メリット:リーズナブル、Wi-Fiが繋がる
デメリット:人との交流は今回は要らない

探せども探せども、私の条件に見合う場所はなかなか見つかりません。
もちろんこちらの準備不足もあります。
半年前からしっかり計画していれば、このようなことにはなりませんから。

しかしこれは、リトリート研修を計画する上での大きな課題だと感じました。単なる親睦旅行や勉強会ではなく、あくまで非日常の環境に身を移しつつもリアルに仕事をしたいと感じたとき、選択できるベストコンディションな施設が少なすぎる。

また意外と「宿泊施設は朝の時間が使いにくい」というのがネックとなりました。恐らくリトリート先での仕事は、朝早くから午後イチまでが「黄金のコアタイム」となるはずです。前日夜、本を読んだり星空を見上げてリラックスし、早く起床する。そしてコーヒーを飲みながらどっぷり集中して仕事をする…

しかし「朝ごはんの時間が決まっている」「ベッドメイクでノックされる」等々、気が散る瞬間があらかじめ想定できると、どうもがっつり仕事がしにくい。

また環境を優先して山奥にこもってしまうと、気分転換にカフェで仕事をしたり、食事を買ったり印刷をしにコンビニへ行ったりができません。つまり山奥に連泊の場合は、三食付きで確保するか、もしくは日数分のランチとおやつを持ち込まないといけないのです。

さすがに前日になってもベストな行き先が見つからず、楽観的な私にも焦りが出てきましたが、こんなとき社内メンバーはまったく頼りになりません。完全放置です。

 

古いサービスは新しい価値観についていけない

最終的に私が使ったのは、あのAirbnbです。「あ、あれがあった」と気が付いたのは出発前日。どうしてもっと早く思い出さなかったのか…

そこからは早かったです。
「程よい田舎で」「コンビニまで徒歩で行けて」
「古民家貸切で」「カフェが併設されていて」
「Wi-Fi完備で」「持ち込み自由、外食も可能で」
「あっという間に予約できて」
「仕事&読書なので放置でOKとオーナーにメッセージであらかじめ伝えられる」

という条件がそこそこ揃ったお宿が、わんさか見つかりました。

めでたしめでたし。

 

今回気付かされたのは、恐らく弊社のような働き方や、リモートワークや環境変化をうまく楽しむワークスタイルがどんどん増えていく中、そのような「新しいスタイル」のために泊まるところを探すと、行きつくのはやっぱり「新しいスタイルのサービス」になるということ。

旧態依然とした「お泊り情報」で見つかる環境では、新しい仕事は生まれにくいのではないか?ということ。

これはこれからの効率的かつ情緒的なワークスタイルを追求する際の、大きな課題でもあるでしょう。

 

リトリート×仕事は組織の根幹に関わる施策だ

この経験から、今後私がクライアントから「リトリート環境で会議やブレストができて、チームの集中力も高まる研修がしたい」とオーダーを受けたとしても、環境だけを優先し「〇〇がおすすめですよ」とは安易にはいえなくなりました。

その組織がリトリート先に何を求めるか、そして日常がどのような状態で、どれくらいそこから乖離させた環境が必要なのかを知るには、徹底したヒアリングが必要です。

リトリートと仕事を両立させるには、旅行パンフレットのような「選択肢の提示」を超えた、組織の風土をはじめとする事業の根幹の理解が求められます。つまり「環境を変えて仕事をしてみよう」というシンプルチャレンジは、実はリアルに人事領域に関係し、経営への大きな影響が予想される施策なのだ、ということをまざまざと感じたのです。

単に「遠い場所や変わった場所」を提案することならすぐにできます。
しかしそこに「仕事の成果」をリンクさせるための環境選びがいかに難しいか。

弊社のようなワークスタイルの場合は、日常の環境から離れることよりも、各自の脳にプラスの影響を与えるにはどうすればいいかが肝になるでしょう。

逆に、毎日同じ時間に出社し、同じデスクで仕事をするスタイルの会社なら、「朝、いつもと違う場所へ向かう」というアクションだけでも、インパクトは相当大きいと推測されます。

「テレワーク」「リモートワーク」という言葉がやっと耳慣れてきましたが、まだまだ、会社から離れての仕事の導入は遅れています。

もちろん、離れることだけがベストだとも思いません。しかし、実際に環境を変えてみると、「非日常」は自分が思う以上に脳を興奮させ、新しい知恵の源泉となると感じました。

そしてそこに感動やアイデア、やる気や夢が付随してくるとしたら。このリトリートの数日は決して無駄にはならない…気がします。

次回からは、いよいよ実際にリトリートに出発した私がどうなったのかを、レポートします。

 

 

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