日本文化講師インタビュー③ 小笠原流煎茶道教授 長谷川秀美先生

「日本文化で人の力を最大化する」株式会社Flucleでは、様々な分野の講師と手を組み、社会人向けの体験・研修プログラムを生み出しています。

この連載では、日頃ご協力いただいている講師の方々に、その生い立ちや想いをインタビュー形式で語っていただきます。第3回目は、煎茶道の教授としてだけではなくマナー講師としても講座をお願いしている、長谷川先生にお越しいただきました。

長谷川先生がお煎茶を習い始めたのは、いつでしょうか?

お煎茶を学び始めたきっかけは、結婚です。
学生時代には裏千家さんの授業を受けたことがあり、そのときに「茶道っていいな」と感じたのですが、習うことはありませんでした。その後20代で結婚したのですが、そのとき旦那さんの祖母がお煎茶をされていて、「あなたも一煎どうぞ…」というかたちで、自然にお煎茶道に触れることとなりました。

すぐに続けて習おうと思われたんですか?

そうですね。
実際お煎茶は生活の中で身近なものですし、「私にはこれがいいかも」と興味が湧いて。

明治生まれのおばあちゃんはお花もお抹茶もされていたので、何を教えていただくかは選べたのですが、すぐにお煎茶の日に積極的に遊びに行くようになり、お煎茶道と出会いました。そして玉露の甘さとトロみが忘れられなくなり、祖母の死後、本格的に習うために小笠原流の直門となりました。

お煎茶道はマナーにうるさく、大変そうなイメージがあるのですが…

そうかも知れませんが、私は逆に正しいことを教えてもらえるのが楽しいと思っています。今まで知らなかったことや、「こういうときどうすればいいの?」という疑問に対して、自己流ではなく「これが正しいんだよ」と教えていただけることに感動しました。 

みな、分からないことを自己流で済ませてしまっています。でも「今まで僕はこうしていた、私はこうしてた」ということに対し、これが本当のやり方なんだよと教わるのは、とても楽しいことですよ。

小笠原流煎茶道教授という肩書について、どのようなものか教えてください

お煎茶にはお点前がすごくたくさんあります。たとえば玉露、お煎茶、それからほうじ茶、そのお点前をちょっとずつ学んでいくことで師範になり、それから准教授、教授になって初めて看板がもらえます。そしてそこまでクリアして、はじめて「人に教えていいよ」ということになります。これは流派によって違いますが…

なかなか身近で煎茶道をやっている方に巡り合うことは無いのですが…

茶道と聞くと「お抹茶」のイメージがありますが、お煎茶をされている方は結構いらっしゃいます。

お煎茶道にもたくさん流派があります。たとえばお抹茶よりカジュアルな流派もあるし、小笠原流のようにマナーをきちんと学ぶとスタイルもあるし、皆さんが思うより意外と幅が広いかも知れません。

お抹茶の茶道と、お煎茶道の違いを簡単に教えていただけますか?

まず茶葉がありますね。それを石臼で粉茶にして使うのがお抹茶です。そしてその飲み方を「道」に高めたのが茶道。

お煎茶は、粉にせずに茶葉を使います。

精神的なものとしては、どちらにも中国から来た禅の教えが入っていますが、お抹茶では「個」の精神が重要視されます。しかし煎茶道で重視される「和」には、「輪」の要素も含まれています。その輪の精神がとても大事にされ、お茶もお菓子もいただくのは皆が揃ってからです。

お稽古では皆が並んで一緒に動くお作法が多いのですね

そうなんです。順番にお点前があり、お運びさん、お客さん、皆でひとつの空間を作り上げます。飲むときもお客さん同士が顔を見合わせて、「いただきましょうか」と確認し合ってからお茶を飲みます。これはチームで美味しさを共有し、同じ時間を楽しむという煎茶道ならではのスタイルです。

お茶会でいただくお煎茶はとっても美味しいのですが、家で急須でお茶を淹れるときのポイントを教えてください!

とにかく温度に気を配ってください!

茶葉の種類によって適温があります。玉露なら45度くらいがベストですし、煎茶なら60度です。温度を守ることでお茶に甘みが出ます。逆に急に熱湯を入れると、甘味が出ずに苦味が出てしまうので注意してください。

後は、ゆっくりと待つことです。
目安は90秒程とされていますが、ぜひご自身の感覚で淹れてみて、待つ時間も楽しんでいただきたいと思います。

温度と時間を守ることで、ご家庭でも美味しいお茶を飲むことができますよ。

煎茶道を学ぶことで、いろいろな知識が増えますね

そうなんです。「お煎茶道ってなに?」とよく聞かれますが、私は「スポーツにたとえると、団体競技です」とお伝えしています。お煎茶道では、何をするにも全員揃っての「お願いします」から始まります。たとえばランニングも、チームで走るときは呼吸を合わせますよね。また、視野を広げ相手の立場を見極めて進めるスポーツとお煎茶道は、とてもよく似ています。

また、誰かが輪から外れないように目を配ることも求められます。実はお煎茶道は、企業の組織運営にも役に立ちます。

ビジネスマンも習った方が良いですか?

ビジネスマンにはおすすめですね。特に管理職、役員の方や経営者などは、輪とチームワークの精神をつなげて組織をまとめることが必要ですよね。煎茶道の中には、その精神が培われています。

ビジネスマンと煎茶道の関係をもう少し教えてください

まず、煎茶道を学ぶと気が利くようになります。

今の若い人は「指示待ち症候群」などと言われますよね。人から指示を言われないと何もしないし、まず周りに興味を示さないと思われているようです。でもチームで空間を作り上げる煎茶道を学ぶことで、周りの人の動きを見て、自分が何をしたらいいか判断できるようになっていきます。そしていずれ「次は何をしたらいいですか?」とちゃんと聞けるようになります。

何をするにも「めんどくさい!」と言っていたような、周りに興味を示さなかった人がどんどん変わっていくのを見て、お煎茶道はすごいな、古いけれども新しいな、といつも感動しています。

長谷川先生は煎茶道をどのような形で広めていきたいとお考えですか?

日本の文化を継承していくことはとても大切なことですので、小笠原流煎茶道を学び、ゆくゆくは看板を取っていただける人の育成がしたいです。また輪の精神…人の気持ちを重んじ、目を配るという精神をもっと知ってもらえたらいいなと思っています。

多くの人に煎茶道の門をたたいて欲しいということですね

そうです。最近では経営者の方や個人事業主の方が興味を持ってくださることが多いのですが、お作法の中にあるマナーや、周りと動きを合わせていくためのヒントを求めていらしゃいます。だからこそ、古いやり方だけではなくセミナーなどの新しい手法でも伝えていきたいです。

着物を着て和室に行かなくても、煎茶道の良さを知ることはできるのですね

もちろんです!

お抹茶の茶道もそうですが、テーブルや椅子に座ってのお作法もありますから、安心して体験にいらしてください。とは言え、ジーンズだとちょっとカジュアル過ぎるかも知れません。

ジーンズだとアウト!これならOK!という線引きが自分でできなくても、お煎茶道に興味がある人はいると思います。その場合は基本からマナーを教えていただけるのでしょうか?

はい。お茶会の雰囲気の中に入るだけで、普段は考えもしないことに気付くチャンスがたくさんあります。そして日頃は触れることの無いものや、初めてのことを見聞きする。それだけもとっても刺激的なことだと思います。

だからこそ、どんどん気軽に来て欲しいと思っています。洋服でも大丈夫ですよ!

男性でも女性でもいいのでしょうか?

男女問わず大歓迎です。たとえばジーンズががダメなのには理由があって、正座のときに足を圧迫してしんどいからです。絶対ダメというわけではないのですね。ただ、足が痛いとせっかくの時間を楽しめませんし、周りへの配慮も含め避けていただいたらいいかな、ということです。

それより、そんなことに気後れして新しい世界に触れる機会を逃すのは、もったいないことだと思っています。

今はお稽古場で教えていらっしゃるということですが、それ以外の取り組みについて教えてください

私の周りには「世界に出て行きたい、和の精神をもって海外に出たい」という方が多くいらっしゃいます。最近ではそのような方向けのセミナーを積極的に行っています。輪の作法を学んで世界に行こう、と言うコンセプトは、今後もっと求められると感じています。

それは日本人向けですか?

そうですね。お稽古は基本的には日本人向けで開いています。

でも先日は韓国の方が来てくださり、日本文化が大好きな方々でしたので、とても楽しく過ごせました。

そのような方々ですと、「誰かやりますか?」と聞くと「やります!」と手がすぐに上がります。文化を学ぶ姿勢に積極性が見られ、とても刺激的です。また私も韓国のお作法を教えてもらい、和文化で国際交流が進みました。

それから、海外に行った際に「日本のことを聞かれても答えられず、恥ずかしかった」と思って帰国する方が多いですね。ふすまの開け方や畳のことなどを聞かれても答えられず困った、というお話をよくお聞きします。

マンションにも和室が無い時代ですからね

でも、せっかくなので聞かれたら答えられるようになって欲しいですね。ですから「知っていることを披露したい」「カッコつけたい」とか、そういう気持ちから入っていただいて良いと思います。実際できたらカッコいいし!

そしてせっかくマナーを習うなら、知識だけのマナーではなく、お煎茶のお茶会体験や美味しいお茶を自分で入れる技の習得もセットしてみてください。世界が変わります。

今はペットボトルでもお茶が簡単に飲める時代ですけれども、お湯を沸かし、適温にして茶葉を蒸らすという贅沢な時間を自分のために使っていただきたいと思います。

美味しいお茶を飲むとホッとしますよね。お風呂に入ったときにふわーッとするような感覚で、たとえお湯飲みであっても、じっくり味わうことでリラックス効果を感じることができます。ちょっとした手間ですが、自分でできるようになってみてください!

最後に、長谷川先生の教室の魅力を教えてください!

私の教室には、本当に初めてという方にもどんどん参加していただいています。また、赤ちゃん連れのお母さんも大歓迎です。非日常の和室でゆっくりとした時間を過ごし、お煎茶道の魅力を感じていただきたいと思っています。

「お稽古」に何を求めてやって来るかは、人それぞれです。美味しい和菓子を食べたいとか、リラックスしたいという動機もあるでしょう。もちろん自分のスキルアップやスタイルアップに貪欲でもいいと思います。その気持ちを最大限にくみ取り、お帰りのときにはその日の「特別な何か」を持ち帰っていただけるような教室にしています。

ぜひ気軽にお越しください。新しい世界が開けるかも知れません。

ありがとうございました!

小笠原流煎茶道と聞くと、とても堅苦しいイメージを持ってしまいますが、決してそのようではないと知りました。また「社会人にとって必要なチームワークや組織運営にも役に立つ」ということは、もっと広く知られていいのでは?とも思える、有意義なインタビューでした。

長谷川先生は、定期的にお寺や和空間での教室・お茶会を開催されています。少しでも興味を持たれた方は、ぜひ一度足を運んでみてください。

長谷川先生の情報はこちら
長谷川先生 公式HP

 

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